松田 正隆 劇作家
大学での演劇祭に出ようと、友人が誘ってくれたのが、私が演劇にかかわるようになったきっかけです。その友人との出会いがなければ、私は演劇を職業にすることもなかったと思います。当時の私は、舞台の上で何かを表現することに対して、全くと言っていい程関心がありませんでした。
ただ、演劇というジャンルに限らなければ、何かを、誰かに向けて表現したいとは思っていたようです。
その「何か」とは、この現実とは違う別の世界のことでした。それは小説や映画で表す類のものであり、生の舞台で表せるものとは到底思えなかったのです。
そのような、別の世界、つまり「物語の世界」があると知ったのは、やはり書物との出会いでした。
小学生の頃読んだ佐藤さとるのコロボックルたちを主人公にした童話『誰も知らない小さな国』には、とても感動した思い出があります。それから、何と言っても映画です。
中学生の頃、S・スピルバーグの『未知との遭遇』を観たときのショックは今でも忘れません。このような圧倒的なリアリティーで、現実にはあり得ない世界を表現する手段があるのかと思い、驚きました。
その頃田舎に住んでいた私は、この映画を観てから、毎日の、長くて暗い学校の帰り道が苦にならなくなりました。月明かりに照らし出された砂利道のカーブの向こうから、未知なる物体が飛来するのではないかという空想が湧き出てくるからです。満天の星空を見上げると、とりとめもない気分になり、地球上で孤独な自分の現実と対峙し得るのは、想像力しかないと思ったのでした。
現実と物語が、私の中で通じ合っていると知ったこと、それが私の戯曲を書き続けている理由なのです。
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