阪上 洋光 劇作家・役者(いちびり一家座長)
いよいよボクは打ち明ける。自分の身に起こったファンタスティックな事件を隠し通すにはまだまだ幼い少年のココロじゃないか。100キロを超えたのは中学生の時だった。誰でもよかった、ただ聞いてもらえさえすれば……。
そのときの友人の動揺は今でもはっきりと思い出すことができる。ところどころが禿げて色あせた茶色いバスケットボールが体育館の隅に転がったままポツンとする。
「阪上が100キロ超えたぞ!」。――授業どころではなくなった。あの日体育館は確かに揺れた。奇しくも時は消費税が導入されて間もないころだ。当然、ボクはこの日から数週間「消費税」と呼ばれることになる。ボクは103キロだった。
自分の中の大きな秘密をひとつ打ち明ければ、もっと大きな秘密は人に知られずに済むかもしれない。だから、できるだけ自分が疵付きそうな、堪えがたいような秘密をチラリ告白してしまう。中学生だったボクはこの日、身体は重いがココロは軽くなった、と信じたい。デブであることに卑屈にならずにすんだ、と信じたい。未だに痩せられないのはその体験が素晴らしかったからだ。そうに違いない!
自分をさらけ出してみるのはそんなに悪いことじゃないような気がしてくる。そんなに怖いことじゃないような気がしてくる。ま、この際は「自分」ってなんだよ、という疑問は忘れた振りでごまかす。とりあえず、正直になってみる。恥ずかしがることは後回しにする。思い切って素っ裸の自分を演じてみる。
「真実は本の中にしか書かない。」ある酒の席でボクはそう教わった。信じた。のめりこんだ。ヒト様にはくだらないウソはすぐに見破られる。誰からも疑われないためにまず自分自身を信じ込ませる必要がある。納得させる必要がある。本気でウソをつく。できるだけ面白いウソ、真っ赤なウソ。うそつきついでに申し上げれば、自分自身をさらけ出してみれば、何かが見えてくるかもしれない。自分で思っている以上の自分に出会える。
――演劇にはマイナスをプラスに変える力がある、らしい。それを信じて疑わない。
ボクと演劇の出会いはきっと100キロを越えた思い出の中にある。そして、再びボクは打ち明ける。……ボクは今年126キロになった。
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