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石本 由宇

京都市東山青少年活動センター

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掲載日:2011年9月18日

石本 由宇 役者(いちびり一家)
私には友がいる。彼女とは中学1年から高校3年まで6年間一緒だった。彼女との出会いは、今思えば運命的なもののような気がする。少し滑稽な。
 彼女はいつも笑顔でみんなの人気者だった。びっくりするくらいのプラス思考。びっくりするくらい男の子にもてていたっけ。勉強もスポーツも出来て、そう、彼女は、私には無いものをすべて持っていた。私は彼女を慕いながらも、本当はコンプレックスの塊だった。何年もの間、誰にも知られないように、心の奥底で私は彼女を嫉んでいた。
 高校最後の文化祭で私は舞台に出ることになっていた。私の高校生活を注いだ舞台を、彼女は必ず見に行くと言ってくれていたが、何せ彼女は生徒会長でそんな余裕は決して無かった。ゴミ袋を手に疲れきった彼女は、上演前の私にこう言った。「本当は、ひまわりの花束を持っていこうと思っていたのに。ごめん。」なんだか体の中がいっぱいになった。その時の舞台のことは、今でもよく覚えている。
 私は初めて、生まれて初めて、自分という存在を感じた。単純に言えば、舞台の上では彼女には決して負けないと思った。私は私でいいのだと。何か大きなものに、私自身の存在を許された気がした。
 きっとその時、私は演劇と出会ったんです。その瞬間、今まで何年も積もり続けたコンプレックスが泡のように消えていった。本当に見事に。
 人には誰にでも「自分の居場所」というものがあるらしい。それはきっと一生をかけて捜し求めるもの―狭き門―。私が今、役者でいられるのは、あの瞬間があったからだ。私の狭き門は、演劇の世界にある、と私はいつも大切な人たちに教えられる。
 今思えば、小さなことが、当時の私にはすべてだった。現実は小さな闘いの繰り返しだ。その小さな闘いの中で、私たちはいつも傷つけ傷つきあう。たくさんの後悔と不安の中で。
それでも尚、闘い続けるのは、会いたい人がいるからです。いつか会えると信じていたいからです。
 彼女とは昔のように簡単には会えなくなってしまった。時折来るメールには、必ず励ましの言葉が添えてある。
「元気ですか」の一言が、小さな私の支えです。

―元気ですか?


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