寺田 みさこ ダンサー
《コンテンポラリーダンス》という、なんだかよくわからない世界に足を踏み入れたのは確か22~23才の頃だったと思う。子供の頃からずっとクラシックバレエを習ってきた私はより自分らしい表現を求めつつもバレエの型からはみ出せないというジレンマに陥っていた。当時の私の踊りに対する評価は「綺麗なんだけどね・・・」「テクニックはあるんだけど・・・」等々、まるで中身が無いかのような言われようには、いたくへこんだものである。「何か今までとは違う事をせねば」との焦りから、パートナーを半ば強引に誘って渡米した。殆ど勢いに任せて一気に地球の裏側まで行ってしまった訳だけれど、実の所、私は根っからの臆病者である。常々石橋を叩いて更に眺めていたりする質なので、見知らぬ街で急に思い切った事など出来る筈もない。とは言え部屋でじーっとしている訳にもいかないので、まずはバレエと共通点の多そうなモダンテクニックを習ってみる事にした。それから、時々は怖いながらも単発のワークショップを受けてみたり、ひたすら誰かにくっついてパフォーマンスを観て回ったり、それまであまり読まなかった純文学を読み漁ったり、なぜか生まれて初めておせち料理を作ってみたりもした。つまり何と言うか、尻込みしながらも出来そうな事をとりあえず何でも良いからやってみた訳である。そんな私のNY留学は、決してドラマティックな分岐点とは言えないけれど、この時期に‘とりあえず’経験した事すべては、私の中に今もしっかりと堆積されている。
最近「綺麗なんだけどね・・・」みたいな事はあまり言われなくなった(喜ぶべきか否か)。今もバレエは続けている。もしもあの頃バレエを辞めて、もっと思い切った選択をしていたなら・・・?。もしもあの時作ったのがおせち料理でなくアフガニスタン料理だったら・・・?。優柔不断な私としては、私が選ばなかった無数の人生に興味が無いとは言えないけれど、今の私の生き方も、それ程悪くはないと思う。