横山 一真 脚本家・演出家
それは、古代を舞台にしたものものしい芝居だった。親友を裏切った男が、彼の処刑に立ち会い葛藤するという話。最後に壮大な音楽が流れて、幕、となるはずだった(なんという劇!)。しかし、幕が降りる三十秒前に、「プチ、ヒュルルル」という音と共に音楽が止まった。劇場は沈黙に包まれ、舞台にいた二十人ほどの役者たちは、ポーズを取ったまま、固まっていた……。
大学の卒業を控えたある日、突然、演劇をやりたいと思った。誰にも云わず我慢していたが、一週間後、仲間を誘った。やるならば、派手にやろうと、いきなり文化芸術会館を借りた。無茶なことだった。それまで、芝居を観たことはないし、どうやって演出したらいいかも分からなかったのだから。役者やスタッフが集まった。チラシも作ったし、チケットも売っている。そうなって初めて怖くなってきた。演劇などに手を出すべきではなかったのではないか?
終わってから、音響を頼んだ人が笑顔で説明してくれた。「時々、熱でテープが切れることあるんだァ。アハハ」。アハハ?そんな馬鹿な!
……舞台では、古墳の埴輪のように、役者たちが永遠の沈黙に閉じこめられていた。その中には、今や演劇プロデューサーの杉山準(なぜか軍手をして出てきた)や、モダンダンスの砂連尾理もいた。ああ、可哀想な仲間たち。みんな、いいヤツだったのに。あろうことか、自分が親友の処刑に立ち会わなくてはならないとは。濃密な時間の中で、アドレナリンが溢れ出し、客席の階段をどくどくと流れ落ちていった。やはり、そうだったんだ。演劇などに手を出すべきではなかったんだ!
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