「日本の技術」
吉靴房(きっかぼう) 野島 孝介
ちょうど取材した日は、京都で桜が満開に近づいていた日。大宮今出川を少し上がっていくと、小学校や小さな公園もあり、多くの職人さんが住んでいます。京都の職人のまちとしてあげられる「西陣」では、職人さんがまちに溶け込んでいるように、モノづくりをされています。
さて、今回取材させていただいた吉靴房さんは、名前にも入っている「靴」を作っているお店です。野島さんを含め3人のつくり てさんと1人の見習いさんが、一人ひとりの得意分野をより発揮できる方法で、作業されています。靴を作る工程は、靴のイメージから始まり、大雑把に言うと 「型紙製甲」など7~8工程ほどあり、早ければ、1日で作られるそうです。また、そのすべてを吉靴房さんの工房の中で行われています。
吉靴房さんは、市販の靴とは一味違う「履き心地」を大切にされています。最近、日 本でも海外の靴メーカーが多くなっていますが、海外と日本では、靴の文化が異なります。海外では、靴を家の中でも履きます。常に靴を履いて生活しているイ メージもあります。しかし、日本では靴を玄関で脱ぎ、家の中では靴を履きません。このため日本では、締め付けのある靴よりも、草履のように脱ぎ履きしやす い形や、ゆとりのある靴が好まれています。
野島さんは、多くの縁があってこの京都・西陣でお店を始められましたが、京都だか らといって伝統を重んじる「和」風さを主張するのではなく、丁寧な「日本」の技術として、モノづくりをされています。微妙なニュアンスの違いですが、モノ づくりにおいて、自分の意識が届いているものをお客さんに出すことが大切だそうです。また、一緒に作る仲間とモノづくりについて理解し合うことも大切だそ うです。
今回の取材では、もちろん靴を作る仕事や、野島さんの人生の一部を聞かせていただ きましたが、「日本」ということ、「仕事」をすることを考えるきっかけになったと思っています。また、靴のお話以外にも、野島さんご自身の経験などから学 生時代の話や就職活動の話なども聞かせていただきました。西陣ひとまちもの語りという、不特定多数の方々に、西陣の存在と西陣の人や仕事を紹介していく活 動の中で、私たちも少しは成長しているのかなと思えました。
(執筆者:井上栞)