Skip to main content

⑱【町屋倶楽部代表】 佐野充照さん

京都市北青少年活動センター

文字の大きさ

掲載日:2013年1月6日

西陣ひと・まち・もの語り18

2012年10月18日(木)

西陣の隠れた面白さを引き出す
佐野 充照さん(町家倶楽部代表,妙蓮寺 塔頭 圓常院住職)

京都を代表する都市型住宅を考えてみる時、町家が第一に挙げられることでしょう。西陣地域でも町家が数多く存在しており、『西陣』を語る際の一つの特徴となっています。
しかし、西陣では、居住者の高齢化と共に空き家が目立ち、放置されるという問題が生じていました。その問題を解決する糸口となる活動を行っているのが『町家倶楽部ネットワーク』です。
今回お話を伺ったのは圓常院住職であり、町家倶楽部の代表をつとめる佐野充照さんです。

 

町家倶楽部ネットワークについて

町家倶楽部ネットワークは1990年代半ばに設立された、「町家の有効活用を支援する団体」です。町家を貸したい大家さんと町家に住みたい人との縁を取り持つ、いわばお見合いの仲人役を担っています。

 

こうして町家倶楽部は始まった

アンティーク好きの佐野さんが、始めに興味を持ったのが『鍾馗(しょうき)さん』(注)でした。趣味が高じて地域における鍾馗さんの残存数を調査していくうちに気付いたのが、多くの『空き町家』の存在だったのです。ただ放置されているだけの町家を何かに利用出来ないか考え、生まれたのが、町家倶楽部ネットワークでした。
意外な話ですが、佐野さんが町家倶楽部を始めたのは、町家とは一見関係無く思える趣味がきっかけでした。町おこしをやるために始めたのでは無く、佐野さん自身が楽しむために始めたのだそうです。「(空き町家に手を入れるのは)小さい頃の秘密基地が2つ、3つと出来る感覚。他の人は、衰退しているから何とかしようと始める。しかし、魅力を見つけていったら面白いことができる。西陣は空き家が多く衰退しているとみられていたが、それは見方次第であって、面白い、利用できるものがいっぱいあると見ることもできる。」そう語る佐野さんの表情はとても若々しく、はつらつとしていました。ネガティブな発想からでは無く、佐野さんらしい前向きな発想から町家倶楽部は活動していきました。

 町家倶楽部が出来てから

町家倶楽部ができた当時は、まだ町家に付加価値はついておらず、むしろ、町家は維持修繕費がかさむので、不動産価値の低い建築物だったのです。
しかし、町家倶楽部がマスメディアで取り上げられると、町家は急激にブームを迎えます。そして、流れに乗じて不動産会社が町家をビジネスとして扱う動きが活発化しました。その結果、町家物件の不動産価値が上昇し、今まで町家に住んでいた若者やアーティストが今度は住めなくなるという事態が発生しました。
「町家は、簡単に手に入る秘密基地という感覚ではなくなってきている」そう語る佐野さんの表情はどこか寂しそうでもありました。
こうした問題はありますが、町家倶楽部が発端となって、全国的にも町家を再活用させようという活動が広まり、町家の価値が見直されることとなったのです。

急速に変化する現代を生きる中で

佐野さんの本職は、上京区に所在する『妙蓮寺』という大本山の塔頭 圓常院の住職さんです。佐野さんは、これからの未来を生きていく中で、人があるべき姿を深く見据えていらっしゃいました。
「若者の意見を聞かない大人が多く、それでは時代についていくことができない。先の先を考えないといけない。お寺は伝統を守らないといけないが、伝統は革新があって創られる。伝統の中から弾けるものがあって、それを認めなければ衰退してしまう」。
現代は加速度的に物事が変化し続けており、柔軟な姿勢で無ければその変化に付いていけなくなってしまうでしょう。「お寺」というと、保守的に凝り固まった印象を抱いてしまいがちですが、佐野さんはそのイメージをすっかり覆す、とても柔軟で新鮮な感性をもつ方でした。
佐野さんは、西陣の街の魅力を「発掘」する名人だという印象を受けました。発掘という言葉を敢えて用いたのは、西陣には、普段はつい見過ごしてしまうような、しかし立ち止まってよくよく見てみると非常に興味深いものがたくさん眠っているように感じるからです。そうした西陣の隠れた面白さ、西陣の潜在力を引き出すことに非常に長けている方でした。
(執筆者 石原真理絵)

(注) 鍾馗(しょうき)さん…中国より伝来した魔除けの神様。京都では屋根瓦の上に飾る風習がある。
*その他のスタッフの感想
・お話をお伺いしていて、佐野さんの取り組みは 好奇心やこうしたらいいんじゃないか、というような前向きな気持ちから生まれていることが伝わって来ました。そのような、ポジティブな動機から動くという姿勢を私も見習いたいと思いました。(早川みなみ)
・今回、佐野さんにインタビューをさせていただいて、義務感や責任感から何かを始めることよりも、まず自分自身が楽しむこと、楽しめることが大切であるのだと感じた。佐野さんは、西陣地域の町家ブームの火付け役として、メディアに取り上げられている方であるが、その思いは地域の復興という義務感からではなく、町家が西陣にあればもっと楽しくなるだろうというとてもポジティブな一歩からのスタートだったという。佐野さんにお話しを伺って、自分が興味や関心があると思ったことは信念を持ってどんどんチャレンジしていきたいと思った。(日裏瑠奈)


Page Top