私は大学の演劇サークルに入り、仲間たちと劇団ZTONを始めて今年で14周年になります。
たくさんの分岐点がありました。
演劇を始めたとき、就職しないことを決めたとき、劇団の共同代表になったとき。
今回は、役者としての一つの覚悟を決めたときの話です。
2014年春、客演先での最終稽古の日、自らの不注意で左手首を複雑骨折しました。
腕が見たことのない形になり、血の気が引くのを初体験しながら夜間病院で応急処置。
「…5日後に舞台本番なんです。舞台に立ちたいんです。」
翌日、病院で泣きながらこう繰り返す私に、先生は言いました。
「全身麻酔ですぐ手術しないと後遺症で手がうまく動きません。公演後では無理です。」
演出家、プロデューサーと何度も話し合い、本番に間に合う方法を探して東奔西走するも、
私は手術を受け、初日は休演となり、左腕のない役として演出を変更していただきました。
本番期間中は外出届で病院から会場へと通い、また病室へ戻ります。
着物の衣装は誰かに着せてもらい、小道具も持たせてもらわなければなりません。
「私のせいで1ステージ休演にしてしまった…みんなに迷惑をかけてしまっている…」
そんな思いから「ごめんね」「ありがとう」「助かります」を何度言ったかわかりません。
申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない。
…でもそこで、ふと思ったのです。
座組みへの気遣いは大切だけど、今、限られた体力や声帯を消費するのが役者だろうか。
違う。
お客様や座組み対して、今の私ができることは芝居で返すことだけ。
本番、舞台上での芝居に全力を出したいのに、それ以外で体力を消費してどうする?
そう思った瞬間から、嫌われてもいい、今回のこの公演だけは
「ありがとう」「ごめんね」「助かりました」は全公演が終演してから言おうと決めました。
今まさに体感している感情すべてを役に乗せて演じさせてもらえるチャンス。
自分への苛立ち、劣等感や恐怖感、支配欲、諦観…今ここにある、生まれ出る新しい感情を
利用しない手はない…そのことだけに神経を集中させる。
そうして、5日間7ステージを終えました。
本当の意味で、一人では舞台に立てないという状況の絶望と申し訳なさがあったからこそ、
舞台に立つ役者は芝居でしか返せないのだという覚悟が生まれました。
その覚悟は今も変わりません。
私は、芝居ですべてを返せる役者でいたいのです。
自分の中での優先順位を認識した「覚悟」の分岐点は、まぎれもなく、あの瞬間でした。
高瀬川すてら【女優(劇団ZTON 共同代表)】