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三谷 昌登

京都市東山青少年活動センター

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掲載日:2011年9月18日

三谷 昌登 劇作家・演出家・役者
結婚したくて、芝居をやめようとしていた。もちろん彼女もそれを望んでくれていて。安定が欲しくて就職しようとしていた。 わがままで無鉄砲で、物事を甘く考えていた23歳。今も変わらない僕ではあるけれど。ちょうど「劇団を旗揚げしよう!」と仲間と決めた、 すぐその後の話だ。無責任な話だ…。

 腹は決まった。就職しよう。結婚しよう。芝居をやめよう。

 今まで「したいこと」ばかりして生きてきた、僕の答えだった。役者になりたくて養成所に入った時も、必要性を感じなくて大学を辞めた時も、 ちゃんと自分で選んで、決めてきた。後悔はない。その時も、今も。そんな僕の決断だった。

 そんな決断だった。…はずだった。

 突然、真っ暗になった。本当に真っ暗闇に包まれた。何もなかった。なくなった。「したいこと」を選んだはずだったのに。したい仕事もなかったし、 できることもなかった。就職の仕方すらわからなかった。もちろん結婚の仕方すら。経済力もあるわけなかったし。とてつもなく怖くなった。
 でも、よく考えたら、芝居を始めた時も何もなかったはずなんだけどな。それまで演劇部だった訳でもないし、学芸会とかでも、ろくに芝居をしてきた訳でもない。だけど、真っ暗闇にはならなかったんだ。むしろ明るかった。未来を自由に描いていた。何年後かの自分を想像してワクワクしていた。まさに大きな違いだった。「想像できる」ということが。そんな言い方すると、その彼女に失礼だけど。失礼でもないか、自分の問題だし。何かを失って、何かを手に入れることというのは、 やっぱり怖いことだ。「失う」ってことは、間違いなく「したいこと」ではないし。

 未来を知ることなんて誰もできない。だけど、未来を想像できれば、「目指す」ことができる。良いことに向かうことも、悪いことを避けることもできる。 同じ生きるなら、思いっ切り前進してるって実感できる方が、自分のこと好きになれるんじゃないかな。そう思う。

 僕は自分大好き。大きな後悔もしたことない。その彼女には、今も心の中で謝り続けてはいるけど…。ずっとがんばってます。進んでるぞ。 想像した未来とは、ちょっと違うけど。


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